手作り帽子専門店 ハットハンドメイド

赤毛のアン Anne of Green gables

年は十一歳ぐらい。着ている黄がかった灰色のみにくい服は、綿毛交織で、ひどく短くて、窮屈そうだった。色あせた茶色の水兵帽の下からはきわだって濃い赤っ毛が、二本の編みさげになって背中にたれていた。小さな顔は白く、やせているうえに、そばかすだらけだった。口は大きく、おなじように大きな目は、そのときの気分と光線のぐあいによって、緑色に見えたり灰色に見えたりした。


「でもあたし、いつかは真っ白な服を着てみたいわ。それがあたしの現世の幸福のいちばん高い理想なの。美しい服ってあたし、大好きなんですもの。それだのに、覚えているかぎりでは、いままで一度もそんなのを着たことはないの――でももちろん、そのほうがよけい、楽しみが多いわけね。それだからこそあたしは、豪華な装束をつけた自分を想像できるんですもの。けさ孤児院を出てくるとき、とても恥ずかしかったのよ。だって、このおそろしく着古した交織の服を着てこなければならなかったんですもの。ほら、孤児はみんな、これを着なくてはならないんですのよ。去年の冬ホープタウンの店の人が、交織の生地を三百ヤード寄付したのよ。売れなかったから寄付したんだという人たちもあるけれど、あたしは、親切な気持からだと思いたいの。そうでしょう? 汽車に乗ったらみんながあたしを見て、哀れに思ってるにちがいないって気がしたけれど、すぐに想像しだしてあたし、このうえなく美しい、うすい空色の絹の着物を着ていることにしたの――だってどうせ想像するなら思いきってすばらしい想像にしたほうが、かいがあるんですものね――花や、ゆらゆらしている羽根かざりがいっぱいついている大きな帽子をかぶって、金時計を持って、キッドの手袋や靴をつけてることにしたの。そうしたらたちまち愉快になってしまって、島にくるまでせいいっぱい楽しく乗ってこられましたわ。船に乗ったときも、ちっとも酔わなかったわ」


「いいえ、マシュウの野良仕事の手伝いに男の子がほしいんだから、女の子ではわたしらに何の役にもたたないんだよ。帽子をとりなさい。それとあんたのかばんを広間のテーブルに置いてくるから」
おとなしく帽子をぬいだ。

そして通りすがりに広間から帽子とかばんを持って行った。


「あなたはそこの長椅子にかけて、お行儀よくしていらっしゃい。帽子はこちらへいただきましょう」


一点非のうちどころのない、いでたちで出かけた。ごわごわした、黒と白のごばん縞の綿じゅすは、丈の点では申し分ないし、窮屈なこともなかったが、やせた体の、いかつい線を残らず見せて、よけい、ごつごつきわだたせていた。帽子は小さな、ひらたいぴかぴかした新しい水兵帽で、あまり、あっさりしすぎているのが、これまた失望のたねだった。ひそかに、リボンや花のかざりをえがいていたのだった。しかし、このかざり物は本道へ出る前に補うことができた。というのは小径の半分どころまでくると、風にそよぐきんぽうげや、野ばらが咲きみだれていたので、さっそく重たい花輪をつくって、こてこてに帽子をかざりたてた。ほかの人はどう思おうと、その効果に大満足だった。そこで足どりもかるく、赤い頭をぴんと起こし、ピンクや黄色のかざりを帽子につけて、鼻高々街道を歩いて行った。
リンド夫人の家にきてみると、夫人はもういなかった。平気で一人で教会さして歩きつづけた。入口のところに着くと、白や青やピンクで、それぞれにきらびやかな服装をした小さな女の子たちが集まっていて、異様な頭かざりをつけてはいってきた見知らぬ女の子を珍しそうに、まじまじと見つめた。

あの花かざりはしおれてしまったので、小径に捨ててきたのでその当座はマリラは何も知らなかった。

つぎの金曜日になって、はじめてマリラは、花輪でかざった帽子の一件を聞いた。マリラはリンド夫人のところから帰ってくると、問いただした。
「リンドの奥さんが言いなすったけれど、あんたは日曜日に、帽子をきんぽうげやばらで、でかでかにかざりたてて教会へ行ったのだってね。いったいなんでそんなわるふざけをする気になったのだろうね。いいもの笑いになったことだろうよ」
「ええ、あたしにはピンクと黄色が似合わないことは、わかってるの」と言いはじめると、
「似合うが、聞いてあきれるよ。色なんかは問題じゃない。そもそも帽子に花なんかつけるということが、ばかげてるというんです。まったく、あんたみたいな、いまいましい子ってありゃしない」
「服に花をつけるのも帽子に花をつけるのも、おんなじじゃないのかしら? 服に花をつけてた女の子がずいぶんいたわ」
マリラはこういう抽象論は苦手だったから、あくまでも具体的な道をたどって、
「口返答は許しません。とにかく、あんなばかげたことを二度とされては困るよ。レイチェル小母さんは、あんたが、あんなかざりをつけてはいってくるのを見たときにゃ、ずるずるっと、床の下へ落ちこんで行きゃしないかと思うくらい、びっくりしなすったそうだ よ。そんなものはとってしまいなさいと、あんたに言おうとしたのだけれど、席がはなれていたので、まにあわなかったそうでね。みんな、そのことで、なにかひどいことを話しているそうじゃないか。むろん、わたしが常識がないから、あんたにあんなかっこうをさせて出したのだと思うにきまってるよ」
「ああ、ほんとにあたし、わるかったわ」目に涙があふれてきた。「小母さんがいやがりなさるとは思いもよらなかったの。ばらも、きんぽうげもあんまりきれいに見えたもんだから、帽子につけたら、すてきだろうと思ったの。造花をつけてる女の子もおおぜいいたんですものね」

「わたしはバーリーの奥さんのところへスカートの型紙を借りに行こうと思うから、よかったらあんたもいっしょにきて、ダイアナと近づきになったら、いいだろう」

「ダイアナにはあんたが気にいるだろうが、問題は、お母さんだよ。もし、あんたがお母さんの気にいらなければ、いくらダイアナが気にいったってだめさ。あんたがリンドの小母さんにかんしゃくを起こしたことや帽子のまわりにきんぽうげをつけて教会へ行ったりしたことが、耳にはいっていれば、お母さんは何と思うかしれないよ」


「ダイアナがきたらお客様用の寝室へ帽子を置きに連れて行って、いい? それから客間へ行ってすわっていい?」


「気でもちがったのかい? なにか着ていけばいいのにね、まるで風に説教してるのとおんなじだ。あの子は帽子も外套もつけずに行ってしまったよ。あのまあ、髪をなびかせて果樹園を駆けぬけて行くようすといったらどうだろう。かぜでもひきこんだら、どうしようって言うんだろうね」


興奮は音楽会のときには最高潮に達した。「すてきなお茶」のあとで、二階の小さなダイアナの部屋で、楽しい着つけにかかった。ダイアナはアンの前髪を新型のなであげ型に結い、アンは彼女独特の手ぎわでダイアナの蝶リボンを結んだ。それから二人で、うしろの髪をまとめるのに少なくとも六種類ものスタイルをためしてみた。
じっさいのところ、自分の何のかざりもない、ぶかっこうな詰袖の黒服と、家で仕立てたねずみ色の外套を、はなやかな毛皮の帽子や小さなスマートな上着と比べたときには、かすかな苦痛を覚えないわけにいかなかった。しかし自分には想像力があるから、それを使えばいいと思いかえした。

「あたしにもさんざしをあげるって言った人があったけれど、あたし相手にしなかったの。その人の名前はだれだか、言うわけにいかないの。だってけっして口にしないという誓いを自分にたてたんですもの。みんな、さんざしで花輪をつくって帽子にかざったのよ」

「あたしたちの今度の牧師さんの奥さんは袖のふくらんだ、すてきな青いモスリンの服を着て、ばらのかざりのついた帽子をかぶっていたわ」

「もしいろいろなことを想像したあげくに行かれなくなったら、それこそどうしていいかわからないんですもの。でも、もし行けるとしたら、あたしの新しいコートがそのころまでにできあがるでしょうから、とてもうれしいわ。マリラは新しいコートなんかいらないって考えていたのよ。古いので結構もう一年まにあうから、服だけは新しいのをつくってあげるからそれでいいことにしておきなさいって言ってね。その服はとてもきれいなのよ――紺色で、流行の型に仕立ててあるのよ。いまじゃマリラはいつでも流行の型にしてくれるのよ。リンドの小母さんのところヘマシュウ小父さんが頼みに行くのがいやなんですって。うれしいわ。着ている物が流行のものだと、よい人になるのが楽だわ。生まれつきの善人にはそんなことはどうでもいいんでしょうけれどね。マシュウ小父さんがどうしてもあたしに新しいコートをこしらえなくてはいけないって言ったもんで、マリラがすてきな青いラシャの生地を買って、カーモディの本職の仕立屋さんがつくっているところなのよ。土曜日の晩にできあがることになってるの。あたし、日曜日に新しい服を着て、新しい帽子をかぶって教会の通路を歩いているところを想像しまいとして骨折ってるのよ。それでもつい想像してしまうのよ。帽子がまた、すてきなのよ。マシュウ小父さんとカーモディに行ったときに買っていただいたの。いま大流行の小さな青いビロードで、金色のひもとふさがついているの。あんたの新しい帽子は上品ね。とてもよく似合うわ。この前の日曜日にあんたが教会にはいってくるのを見たとき、あれが自分のいちばん、大事な友達だと思うと、誇りで胸がいっぱいになったわ。こんなに着るもののことばかり考えるのは、わるいんでしょうね? マリラは、たいへん罪ふかいことだって言うのよ、だけど、とても気をひかれることじやない?」

朝食がおわると、新しい、はなやかな帽子をかぶり、上着を着せられて、急いで小川をわたり、樅林をぬけてオーチャード・スロープへ行った。

「そうだよ、あんたにさ」マリラは答えた。「あんなにながいこと乗ってくるんだから、さぞお腹をすかしてくるだろうと思ってね、なにかおいしいものがほしかろうと思ったのだよ。さあ早く、外套や帽子をぬいでおいで。マシュウが帰ってきたらすぐ食事だよ。あんたが帰ってきてたすかったよ。あんたがいないと、ひどくさびしくてね、こんなながい四日間をすごしたことがないよ」


「さあ、帽子や持ち物をこっちへおよこしなさい、レイチェル。お茶にしましょうよ」

赤毛のアン

帽子に生花を飾るってとっても可愛いと思うのですが! のどかな村ではセンセーショナルなほど!

アンの水兵帽(sailor hat)は海兵のセーラーハットでなく、赤毛のアンと聞いたら三つ編みと一緒に思いうかぶ、キャノチェという麦藁帽子です。クラウン(かぶるところ)の上底とブリム(つば)が平行な形の帽子です。

帽子に花を満艦飾に飾った姿はきっとこんな風です。

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