帽子屋ハンドメイドハット販売

さすがは有名ないかれ帽子屋。
まったくわけがわかりません。
こんなに何が何だかだとは。

不思議の国のアリス

「この近所にはどんな人たちが住んでいますか?」
「この方角にはな」とネコは右の前足をぐるっと回すように振って言いました。「ぼうし屋が住んでいる。それからこっちの方角には」と、左の前足を振りながら「三月ウサギが住んでるよ。好みのほうをたずねてごらん。ふたりとも気がふれてるのさ」
「でも気ちがいの人たちとつきあうのはいやだわ」とアリスは口を出しました。
「いや、それはどうしようもないんだ」と、ネコは言いました。「このあたりではみんな気がふれてるのさ。おれも気ちがい。あんたも気ちがい」
「わたしが気ちがいだなんて、どうしておわかりなの?」とアリスは言いました。
「気ちがいにきまってるさ」とネコは言いました。「さもなきゃ、こんな場所にやってくるわけがない」
アリスは、それじゃちっとも説明にならないと思いましたが、それでも言いつづけました。「では、どうしてあなたが気ちがいだとおわかりなの?」

「そうなると思ったよ」とネコは言って、またまた消えてしまいました。
アリスは、また現れるかなと、はんぶんは期待しながら、しばらく待ちましたが、ネコは姿を見せません。一、二分するとアリスは三月ウサギが住んでるとおそわった方角に歩いてゆきました。「ぼうし屋なんて、前に何人も会ったことがある」とアリスはひとりごとを言いました。「三月ウサギの方が、ずうっとおもしろいでしょう。それにたぶん、今はもう五月なんだから、めちゃくちゃなことを言って狂い回りもしないでしょう――すくなくとも三月ほどではないと思うわ」こう言って目をあげると、またもやチェシャ・ネコが、木の枝に坐っていました。

「やっぱり狂い回っていたらどうしよう! ウサギのかわりに、ぼうし屋をたずねた方がよかったと思うくらいよ!」


家の正面の木の下にはテーブルがすえてあり、三月ウサギとぼうし屋は、そこでお茶を飲んでいました。眠りネズミがふたりにはさまって坐っていましたが、眠っているも同様で、ほかのふたりがクッションがわりに使っていました。眠りネズミの上にひじをついて、その頭ごしにしゃべっていたのです。「眠りネズミはずいぶんいやでしょうね」とアリスは思いました。「でも、寝こんでいるから、気にならないかもしれないけど」
テーブルは大きなものでしたが、三人はそのはじっこにひとかたまりになっています。「席はない! 席はないよ!」とみんなはアリスが来たのを見るとさけびました。「ずいぶんあいてるじゃないの!」と、むっとしてアリスは申しました。そしてテーブルの片すみの、大きなひじかけいすに坐りました。
「ブドウ酒はいかが」と三月ウサギが元気づけるように声をかけました。
アリスはテーブルじゅうを見まわしましたが、あるのはお茶だけでした。「ブドウ酒なんて見えないわ」とアリスは言いました。
「ぜんぜんないさ」と三月ウサギは言いました。
「だったら、ないものをすすめるなんて、ずいぶん失礼じゃなくって」とアリスは腹を立てて言いました。
「よばれもしないのに、ここに来て坐るなんて、ずいぶん失礼じゃないかね」と三月ウサギが言いました。
「あなたのテーブルだとは知らなかったのよ」とアリスは言いました。「三人分よりもっと大勢のしたくがしてあるもの」
「あんたの髪はからないといかんね」とぼうし屋が言いました。アリスをさっきから大へん珍しそうにながめていたのですが、口をひらくと、いきなりこう言ったのです。
「他人のことにあれこれ口出ししないようにと、おそわらなかったの」とアリスはいくぶんきびしい調子で申しました。「とても失礼ですよ」
ぼうし屋は、そのことばを聞きながら、目をまんまるに見はっていました。しかし口に出したことと言ったら、これっきりです、「大ガラスがつくえに似てるのはなぜ?」
「さあ、これでちょっとおもしろくなりそうね!」とアリスは考えました。「この人たちが、なぞなぞをはじめたのはうれしいわ――わたし、当てられそうよ」とアリスは声に出して言いそえました。
「そりゃ、このなぞの答えがわかると思う、という意味かい?」と三月ウサギは申しました。
「その通りよ」とアリスは言いました。
「それじゃあ、思ったことを言うがいいさ」と三月ウサギはつづけました。
「そうするわ」とアリスはいそいで答えました。「すくなくとも、――わたしが言うことは、わたしの思ってることだもの――つまりどちらも同じことよ、そうじゃなくて?」
「ちっとも同じことじゃあないさ!」とぼうし屋は言いました。「だってさ、それじゃ、『わたしはたべるものを見る』というのと、『わたしは見るものをたべる』というのが、同じだと言ってもかまわんことになるぜ!」
「あんたはこう言ってもかまわんことになるぜ」と三月ウサギも言いそえました。「『わたしは手にはいるものがすきだ』と、『わたしはすきなものを手に入れる』が同じだなんてね!」
「あんたは、こういってもかまわんことになる」と眠りネズミも口を出しました。ネズミは眠りながらしゃべっているみたいでした。「『わたしは眠るとき息をする』と、『わたしは息をするとき眠る』が同じだなんてね!」
「おまえの場合は、どっちもおなじことなんだよ」とぼうし屋が申しました。そしてここで会話はやんでしまい、一同は一分間ほど口をつぐんで坐っていました。アリスはそのあいだ、大ガラスとつくえについて、思いだせることをすっかり考えてみましたが、たいしたことはありません。
ぼうし屋がまず沈黙をやぶりました。「きょうは何日かね?」とアリスの方を向いて聞いたのです。さっきから彼はポケットから時計をとりだして、心配そうにながめ、ときどき振ってみたり、耳にあてたりしていたのです。
アリスはちょっと考えてから言いました。「四日よ」
「二日くるってる!」とぼうし屋は言いました。「バターは機械に合いっこないと言ったじゃないか!」と彼は三月ウサギを腹立たしげに見やりながら、つけくわえました。
「極上のバターだったがな」と三月ウサギはおとなしく答えました。
「そうさ。だが、バターといっしょにパンくずがはいったにちがいない」とぼうし屋はぐちっぽく言いました。「パン切りナイフでやったのがいかんのさ」
三月ウサギは時計を手に取って陰気な顔をしてながめました。それから紅茶のはいった茶わんにつけて、もう一度ながめました。でもはじめに言ったことばをくりかえす以上には、良いちえも浮かばないようでした。「極上のバターだったがな」
アリスは三月ウサギの肩ごしに、いささかものめずらしくのぞきこんでいました。「なんておかしな時計!」とアリスは申しました。「その月の日づけはわかるけれど、今何時かということはわからないのね!」
「それでいいじゃないか?」とぼうし屋はつぶやきました。「あんたの時計なら、今が何年だかわかるのかい?」
「もちろん、だめよ」とアリスは大いそぎで答えました。「だって、一年というものはずいぶん長いあいだ同じまんまなんですもの」
「それこそまさにわたしの時計の場合だ」とぼうし屋は言いました。
アリスは非常にめんくらいました。ぼうし屋のことばは、まったくなんの意味ももたないように思われるのに、それでもたしかに、ちゃんとしたことばなのです。「あなたのおっしゃること、ぜんぜんわかりません」とアリスはできるだけていねいに申しました。
「眠りネズミめ、また眠っちまったな」とぼうし屋が言いました。そしてネズミの鼻先に、熱い紅茶をすこしこぼしました。
眠りネズミはじれったそうに首をふり、目をあけないままで申しました。「そうだとも、そうだとも。ぼく自身も今まさにそう言おうとしてたんだ」
「まだ、なぞなぞを考えてるのかい?」とぼうし屋がアリスのほうに向いてまたたずねました。
「いいえ。もう降参」とアリスは答えました。「答えはなあに?」
「ほんのこれっぱかしもわからん」とぼうし屋が言いました。
「わたしもさ」と三月ウサギが言いました。
アリスはあきあきして、ためいきをつきました。「あなたがた、もうすこしはましな時の使いようがあると思うわ」とアリスは言いました。「答えの出っこのないようななぞなぞをかけて、時をつぶすよりはね」
「わたしが知っているていどに、あんたにも時というものがわかってるなら」とぼうし屋が言います。「つぶすなどとは言わんだろうがね。時はいきものだぜ」
「どういう意味かわからないわ」とアリスは言いました。
「もちろん、わからんだろう!」とばかにするように首をふりながらぼうし屋は言いました。「あえて言うが、あんた、時と口をきいたこともないだろう!」
「ないようだわ」とアリスは用心して答えました。「でも、音楽のおけいこのときなんか、時をはからなきゃならないわ」
「ああ!それでわけがわかった」とぼうし屋は言いました。「時は、はかられたりするのがいやなのさ。ねえ、あんたがもし仲よくさえすれば、時計に何を注文しようと、時のやつがたいていはやってくれるはずだぜ。たとえばさ、朝の九時、勉強のはじまる時刻だとしてごらん。あんたが、時にほんのひとこと耳打ちしてやりさえすれば、時計はまたたくうちにひとめぐりさ!一時半、ひるごはんの時刻とくるんだぜ!」
(「そうだったらいいがね」と三月ウサギは、ひそひそとひとりごとを申しました)。
「そうだったらすてきね、きっと」とアリスは思案顔で言いました。「でも、それだと――おなかがすかないんじゃなくって」
「はじめのうちはね」とぼうし屋は言いました。「だが、あんたのすきなだけ、いつまでも一時半にとめておけるんだぜ」
「それがあなたのやりかたなの?」とアリスはたずねました。
ぼうし屋は悲しそうに首をふりました。「おれのじゃない!」と彼は返事しました。「こないだの三月、おれたちは――(とお茶のスプーンで三月ウサギをゆびさしながら)――ちょうどこいつが気ちがいになる前だが、こいつとけんかしたのさ。――ハートの女王のもよおされた大音楽会のときだったが、おれは歌わなきゃならなかったんだ、

『きらきら、ひかれ、小さなこうもり、
いったいおまえは、何ほしい!』

たぶん、この歌は知ってるな?」
「似たようなのなら、聞いたことがあるわ」とアリスは言いました。
「そら、先をつづけるぞ」と言ってぼうし屋は先を歌いました。「こんなぐあいさ――

『この世をはるか下に見て
おぼんみたいにみそらを高く。
          きらきら、きらきら――』」

ここで眠りネズミがぶるっと身ぶるいすると、眠りながら歌いはじめ、「きらきら、きらきら、きらきら、きらきら――」といつまでも歌いつづけるので、みんなはネズミをつねって、やめさせなければなりませんでした。
「ところで、おれが第一節を歌い終わるか終わらないというところで」とぼうし屋は言いました。「女王はどなりだされたのだ、『こやつ、時をつぶしておるぞ! こやつの首をちょんぎれ!』」
「まあ、なんてひどいの、やばんねえ!」とアリスはさけびました。
「それからというもの」とぼうし星は悲しそうな口調でつづけました。「時のやつ、おれがたのむことを何ひとつやってくれない! このごろは、いつみても六時なんだよ」
アリスははっと気がつきました。「ここにこんなにたくさんお茶の道具が出ているのは、そのせいなのね?」とアリスはたずねました。
「そうとも、その通りさ」と、ためいきをついてぼうし屋は言いました。「いつでもお茶の時間なのさ、だから、茶わんを洗おうにも、とぎれめがないんだ」
「だから、しょっちゅう席を変えてぐるぐる回りしてるのね、そうでしょう?」とアリスは言いました。
「まさしくそうさ」とぼうし屋は言いました。「お茶の道具は使いっぱなしにしてるからなあ」
「でも、またふりだしにもどったら、どうなるの?」とアリスは思いきってたずねてみました。
「話題を変えたら、と思うがね」と、あくびしながら三月ウサギが話をさえぎりました。「その話、もうあきあきするよ。ぎゃくにそのおじょうさんに、ひとつお話を願ったら、と提案するね」
「わたし、お話なんて知らないかもしれない」とアリスは、この申し入れに少々びっくりして言いました。
「それじゃあ、眠りネズミにやらせよう」とふたりはさけびました。「起きろよ、眠りネズミ!」そしてふたりはいちどきにネズミの両わきをきゅっとつねりました。
眠りネズミはゆっくりと目をあけました。「ぼく、眠ってはいなかったよ」と、しゃがれ声でぼそぼそと言うのです。「君らの言うことは、一語のこらず聞いたよ」
「話を聞かせろよ」と三月ウサギが言いました。
「お願いよ、聞かせて」とアリスもせがみました。
「それに、早いとこやってのけなきゃ」とぼうし屋が口をそえました。「さもないと君は、終わらないうちに眠ってしまうからな」
「むかしむかし、三人の幼い姉妹がおりました」と眠りネズミは大いそぎで話しはじめました。
「名前は、エルジーに、レーシーに、ティリーです。三人は井戸の底に住んでいました――」
「何をたべて生きていたの?」と、たべたり飲んだりすることにはいつも大そう興味があるアリスが聞きました。
「糖蜜をたぺていました」と、眠りネズミは一、二分考えてから申しました。
「でも、そんなことできなかったはずよ」とアリスはそっと注意しました。「病気になってしまうもの」
「病気でした」と眠りネズミは申しました。「ひどい病気なのでした」
アリスは、そんな風変わりなくらしかたって、いったいどんなものかしらと、ちょっと想像しようとしましたが、頭がこんがらがってしまいました。そこでたずねつづけました。「でも、どうして井戸の底でくらしていたの?」
「もっとお茶をいただきなよ」と、とても熱心に三月ウサギがアリスに言いました。
「まだちっともいただいてないわ」とふんがいした声でアリスは言いました。「だから、もっと、と言われてもむりよ」
「もっとすこしはむりだって、言うつもりだろ」とぼうし屋が言いました。「ぜんぜんなしよりも余計にいただくのは、しごくやさしいね」
「だれもあなたの意見なんか、聞きはしなくてよ」とアリスは言いました。
「さあて、ひとのわるくち言ってるのはだれかね?」と勝ちほこったようにぼうし屋は言いました。
アリスもこれにはなんと答えていいか、よくわかりません。そこで自分で勝手にお茶とバタパンを取ると、眠りネズミに向かって質問をくりかえしました。「なぜ、三人は井戸の底に住んでいたの?」
眠りネズミはまた一、二分のあいだ考えて、それからやおら「それは糖蜜の井戸だったのです」と申しました。
「そんなものがあるわけはないわ!」とアリスはひどく腹が立ってきましたが、ぼうし屋と三月ウサギが「しっ、しっ!」とたしなめ、眠りネズミはふきげんそうに言いました「礼儀ただしくできないのなら、この話のつづきを自分でしたほうがいいですよ」
「いいえ、先をつづけてちょうだい」とアリスはごくおとなしく申しました。「もうお話のじゃまはしませんから。きっとそんな井戸もあるんでしょうね」
「そんな、とはまったく失礼な」と、眠りネズミはおこって申しました。それでも、話をつづけることは承知したのです。「そういう次第で、この三人の幼い姉妹は――汲むけいこをしていたのですよ――」
「何を汲んだの?」と、すっかり約束を忘れてしまってアリスは聞きました。
「糖蜜」と、こんどはぜんぜん考えもしないで眠りネズミは申しました。
「きれいな茶わんがほしいな」とぼうし屋が口をはさみました。「みんな一つづつ席をずらそう」
そう言いながらぼうし屋は席を移し、眠りネズミもそれにつづきました。三月ウサギは眠りネズミの席に移り、アリスは少々いやいやながら三月ウサギの席にかわりました。この席かえで少しでももうかったのはぼうし屋だけです。そしてアリスはというと、ちょうど三月ウサギが牛乳入れを受け皿にひっくりかえしたところでしたから、前よりもずっと悪い条件になりました。
アリスはこのうえ眠りネズミをおこらせるつもりはなかったので、うんと用心しながら言い出しました。「でもわからなかったわ。どこから三人は糖蜜を汲んでいたのですか?」
「水なら水井戸から汲めるだろ」とぼうし屋が申しました。「だから糖蜜なら糖蜜井戸から汲めるはずだ、と言いたいね、――わからんのかね、ばかだな」
「でもその三人は井戸のなかにいたのでしょう?」アリスはおしまいの一言は気にしないようにして、眠りネズミにたずねました。
「もちろん、いたですね」と眠りネズミは申しました。「いとど深くにね」
アリスはかわいそうに、この返答にめんくらってしまい、眠りネズミがしばらく話しつづけるのに、ロだししないでおりました。
「三人は汲むけいこをしていました」あくびをしたり、目をこすったりしながら眠りネズミは話しつづけました。ひどく眠くなりかけていたのです。「それで、ありとあらゆるものを汲んだのです――ネではじまるものはなんでもでした――」
「なぜ、ネではじまるの?」とアリスはたずねました。
「ネでいかんかね?」と三月ウサギが言いました。
アリスはロをつぐみました。
眠りネズミはこのときもう目をつぶっていて、居眠りしはじめておりました。
でも、ぼうし屋にきゅっとつねられると、きーっと小さな悲鳴をあげて目をさまし、またもや話しつづけました。
「――ネではじまるものでした、たとえばネズミトリ、それにネンネンコロリ、それにネクタイ、それにネタラク――そら、寝た楽だれにやろ、って、よく言うでしょう――ネタラクを汲むなんて、あなたそんな所を見たおぼえがありますか?」
「そうねえ、そう聞かれても」と、アリスははなはだめんくらって言いました。「ついぞ見たおぼえは――」
「それならだまっていなさいよ」とぼうし屋が言いました。
こんな無作法な一言は、もうアリスもがまんできません。すっかりいやけがさして立ちあがり、そこから歩きだしました。眠りネズミはすぐさま寝こんでしまい、あとのふたりも、アリスが立ち去るのをちっとも気にかけないようでした。それでもアリスは、よびとめてくれないかなという気が半分は手つだって、一、二度はふりかえったのですが、さいごに目にはいったのは、ふたりがかりで眠りネズミを急須のなかへ押しこもうとしているところでした。
「何があろうと、もうあんなところへは二度とゆかないから!」とアリスは森のなかを道をさがして歩きながら申しました。「今までに、あんなにばかばかしいティー・パーティになんか出たこともありゃしない!」


第一の証人はぼうし屋でした。彼は片手にはお茶のカップを、片手にはバタつきパンをひときれ持ったままはいってきました。「ごめんください、陛下」とぼうし屋は言いはじめました。「このようなものを持ちこみましたが、およびだしのあったとき、まだ茶を飲み終えておりませんでしたので」
「終えておくぺきであったぞ」と王さまは言いました。「いつはじめたのか?」
ぼうし屋は、眠りネズミと腕を組んで自分のあとからついてきた三月ウサギのほうを見ました。
「三月十四日、そのようにおぽえております」とぼうし屋は言いました。
「十五日だよ」と三月ウサギが申しました。
「十六日さ」と眠りネズミが申しました。
「書きとめておけ」と王さまは陪審員に命じました。陪審員たちは熱心にその三通りの日づけを石盤に書き取り、足し算をしたうえで、出た答を何シリング何ぺンスかに換算しました。
「おまえのぼうしをぬげ」と王さまはぼうし屋に言いました。
「これは手前のものではございません」とぼうし屋は申しました。
「ぬすんだのじゃ!」、王さまが陪審員のほうに向かってさけんだので、一同はすぐさまこの犯行のおぼえ書をつくりました。
「売るために持っておるのでございます!」とぼうし屋はおくればせに弁解しました。「わたしには自分のはございません。ぼうし屋でござ いますから」
すると女王は目がねをかけ、ぼうし屋をきびしい顔でにらみつけはじめましたから、ぼうし屋はまっさおになってそわそわしました。
「証言せよ」と王さまは言いました。「そのようにびくびくするな。さもないとたちどころに処刑いたすぞ」
こんなことばが証人を元気づけるわけがありません。ぼうし屋は、からだの重みをたえず右足にかけたり、左足にかけたりしながら、こわそうに女王を見ていましたが、うろたえたあまりに、バタつきパンのかわりにお茶のカップのふちを大きくひときれ、かみとってしまいました。
ちょうどこの瞬間、アリスはとても奇妙な感じがして、なにがなんだかわからなくなりましたが、やがてようやくその理由がのみこめました。からだがまた大きくなりはじめていたのです。はじめは、立ちあがって法廷から出てゆこうと思いました。しかし考えなおして、坐るゆとりのあるあいだは、そのままの場所に坐っていることにきめました。
「そんなにぎゅうぎゅう押さないでおくれよ」ととなりに坐っていた眠りネズミが申しました。「息もつけないほどだよ」
「どうにもならないのよ」とアリスはごくつつましやかに言いました。「わたしからだが大きくなっていくのよ」
「ここでは大きくなる権利はないよ」と眠りネズミは言いました。
「つまらないことは言わないで」とアリスは前より大胆になって言いました。「あなただって大きくなるのじゃなくて」
「うん。でもぼくは手ごろな速さで大きくなってくんだ」と眠りネズミは言いました。「そんなとほうもないやり方じゃないんだよ」そう言うと、たいへんふくれっつらをして立ちあがり、法廷の向こう側に行ってしまいました。
そのあいだじゅう、女王はぼうし屋をじいっとにらみすえたままでしたが、ちょうど眠りネズミが法廷を横切ったとき、役人のひとりに向いて、こう言いました。「この前の音楽会の歌い手のリストを持参せよ!」すると、あわれなぼうし屋はぶるぶるふるえ、ふるえるはずみに靴が両方ともぬげてしまいました。
「証言を述ぺよ」と、王さまが立腹してくりかえしました。「さもないと、そちがいくらおどおどしようとかまわずに、死刑に処するぞ」
「わたしはあわれな者でございます、陛下」とふるえる声でぼうし屋は言いはじめました。「それにまだお茶をはじめたともいえぬところで、――まだものの一週間にもなりませぬ、――それにバタつきパンがこんなに薄くなったせいもございます――それにまた紅茶のきらめき――」
「なんのきらめきと申したか?」と王さまはたずねました。
「ことは、キの字がはじまりでございました」とぼうし屋は答えました。
「当然じゃ、きらめきはキの字ではじまっておる!」と王さまはするどい声で言いました。
「そちは余を馬鹿者と思っておるのか? 先をつづけい!」
「わたしはあわれな者でございます」とぼうし屋はうったえつづけました。「そののちは大方の物がきらめきまして――ただ三月ウサギが申すには――」
「わたしは言いませんでしたよ!」と三月ウサギが大いそぎで口を出しました。
「言ったとも!」とぼうし屋は申しました。
「否認いたします!」と三月ウサギが申しました。
「ウサギは否認しておる」と王さまは言いました。「その言わなかった部分は削除せよ」
「さて、それはとにかく、眠りネズミが申しますには――」とぼうし屋はつづけながら、眠りネズミも否認しはすまいかと、心配そうにふりかえりました。しかし眠りネズミはぐっすり眠りこけていて、何も否認しませんでした。
「それからのちは」とぼうし屋はつづけました。「バタつきパンをもう少しきりまして――」
「しかし眠りネズミはなんと言ったのですか?」と陪審員のひとりがたずねました。
「それは記憶しておりません」とぼうし屋は申しました。
「記憶しておかなければいかん」と王さまは注意しました。「さもないと処刑いたすぞ」
あわれなぼうし屋は茶わんとバタつきパンを取り落として、片ひざを折ってひざまずいてしまいました。「わたしはまずしい者でございます、陛下」とぼうし屋は言いさしました。
「おまえはまことにまずしい話し手じゃ」と王さまは申しました。
ここでブタネズミのうちの一ぴきが拍手したので、ただちに役人にとり押さえられました。(これはちょっとむずかしいことばなので、どんなふうにやるのか、ここで説明しておきましょう。役人たちは大きなズックの袋を持っていて、その袋のロはひもでしばってあるのです。この袋のなかにブタネズミをさかさにすぺりこませ、その上に坐ってしまうのです)
「あのやりかたを見物できてうれしいわ」とアリスは考えました。「よく新聞で、『裁判の終りにかっさいしようとくわだてる者があったが、ただちに役人によってとり押さえられた』なんて書いてあるのを読んだけれど、今の今まで、どんなふうなことなのかわからなかったもの」
「そちの知っておるのがそれだけならば、証人席よりさがってよい」と王さまはつづけました。
「これ以上低くはさがれません」とぼうし屋は申しました。「この通り、ゆかに片ひざついておりますから」
「それでは、坐るがよかろう」と王さまは答えました。
ここでもう一ぴきのブタネズミが拍手したので、とり押さえられました。
「さあ、これでブタネズミもかたづいた!」とアリスは思いました。「これで前よりもうまくゆくでしょう」
「わたしはちょっくらお茶をすませたいのでございますが」と、心配そうに女王に目をくばりながらぼうし屋が申しました。女王は歌い手のリストを読んでいました。
「おまえは行ってよい」と王さまは言い、ぼうし屋は、靴もはかないで、いそいで外へ出てゆきました。
「――外に出たら、あやつの首をちょんぎれ」と女王は役人のひとりに言いそえました。でもぼうし屋は、役人が戸口にゆく前に、姿を消してしまいました。

不思議の国のアリス

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不思議の国のアリスってこんなすごいお話だって知りませんでした。

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